虫歯の治療は削るものと思っておられませんか? 虫歯になったら削って詰めるしか治療法はないのでしょうか? 軽度の虫歯であれば削らなくても良い場合がありますのでご説明します。
目次
虫歯はどうして出来るの?
虫歯はお口の中に存在している細菌が出す酸で歯が溶かされる感染症です。虫歯を引き起こすとされる代表的な細菌はミュータンス菌で、食事やおやつに含まれる糖分をエサにして増殖し、グルカンと呼ばれるネバネバしたものを放出します。グルカンによって細菌が更に付着していき、歯の表面に白い塊の汚れとなったものが歯垢(プラーク)です。
歯垢は細菌の塊なので、細菌が歯に付着した状態が長時間に及ぶと、歯が溶かされて虫歯になってしまいます。
虫歯はどんな風に進行していくの?
虫歯は進行度によって、歯医者での治療を必要としない初期虫歯のC0、治療を必要とする虫歯は軽度のものから順にC1~C4まで分類されます。
C0、C1:初期の虫歯
歯の表面のエナメル質のみが虫歯に侵された状態。C0は歯の表面からカルシウムやリンなどのミネラルが溶け始めた脱灰の状態です。奥歯の噛む面にある細い筋が茶色や黒い色に変色している場合はC0の虫歯が疑われます。
脱灰の状態では歯が唾液中に溶け出したミネラルを吸収する再石灰化で修復が可能なので、痛みなどの症状はなく、歯を削って治療することは殆どありません。
C1はC0よりはやや虫歯が進んだ状態ですが、痛みはほとんど感じません。虫歯を削り取ってコンポットレジン(歯科用プラスチック)を詰めて治療します。C1であっても削らずに経過観察するという判断になる場合もあります。
C2:虫歯が象牙質まで達している状態
象牙質の大部分が虫歯に侵されて歯に穴が開いている状態です。まだ虫歯は神経には届いていないものの、熱いものや冷たいものの温度による刺激がしみる痛みとなって感じられることもあります。
虫歯を削って取り除き、削った部分の大きさによってコンポジットレジンか金属やセラミックの詰め物(インレー)をして治療します。
C3:歯髄(歯の神経)まで虫歯が進行している状態
象牙質の奥にある歯髄まで虫歯が達しており、ズキズキとと強い痛みを感じます。歯髄には歯の神経や血管が通っており、この部分が炎症を起こすと治りにくく、そのままにしておくと神経が腐ってしまい、歯を抜かなくてはならなくなります。
歯の神経を取り除く治療(根管治療)を行い、金属やセラミックの被せ物(クラウン)をかぶせて治療します。
C4:虫歯菌が骨にまで進行した状態
歯がほとんど根っこだけになった状態で、C4では殆どが抜歯になります。なくなった歯を補うために、ブリッジ、入れ歯、インプラントなどで治療を行います。
唾液による歯の自然修復作用「再石灰化」とは?
一回虫歯になってしまうとその歯はもう元に戻らないと思われていますが、初期の虫歯であれば、歯垢や歯石を除去するプラークコントロールを行うことで、歯が再石灰化という現象を起こして治癒する可能性があることがわかってきました。
しかしC2以上の虫歯では、そのままにしておくと虫歯はどんどん進行していってしまいますので、削って詰めるという治療を行います。虫歯を削らずに治すには早期発見と早期の適切な治療が必要です。
脱灰について
お口の中では、虫歯菌が出す酸や酸性の食べ物によって歯が溶かされる「脱灰」と、歯の修復を行う「再石灰化」が繰り返し行われています。
「脱灰」は酸によって歯の表面のエナメル質からカルシウムやリン酸が溶け出して、歯からミネラルを奪ってしまいます。
再石灰化について
お口の中は通常は中世に保たれているのですが、酸性の食べ物や虫歯菌の作り出す酸によって、お口の中が酸性に傾きがちになります。しかし唾液には酸性に傾いたお口の中を中性に戻そうとする作用がありますので、食後しばらくすると酸性に傾いていた状態が中性に近づきます。
お口の中が中性に近づくと、唾液中に溶けだしたカルシウムやリン酸などのミネラルが歯のエナメル質に沈着して、歯の溶けた部分を修復してくれます。唾液による自然の修復作用を「再石灰化」といいます。
脱灰と再石灰化が同じ程度で繰り返されている間は、健康な歯が保たれます。
歯を削らずに再石灰化で虫歯が治る可能性があるのは初期虫歯のみ
最近は初期の虫歯の場合で、虫歯菌が歯の象牙質の奥まで進んでいなければ、すぐに歯を削ることをせずに、まず歯のクリーニングをし、経過観察を続けながら再石灰化を待つケースもあります。
子供の場合はフッ素塗布を行うと歯の回復が早いでしょう。ただし、フッ素には子供に安全とされる濃度がありますので、歯への直接の塗布は必ず歯科医師の指導の下で行いましょう。市販されているフッ素入り歯磨きはそれらの基準を守っていますので、安全に使用できます。
歯の再石灰化による虫歯の修復には個人差があり、虫歯の進行度によっては虫歯を削った方が良いケースもあります。そのため初期の虫歯は削らない方が良いというわけではありません。
虫歯の早期発見のために出来ること
虫歯で痛い思いをしたり、歯医者で削らなくて良いようにするには、虫歯を出来るだけ早い段階で発見することです。虫歯の早期発見のためのポイントについてご説明します。
1.定期健診で虫歯をチェック
数か月に一度の間隔で歯科医院の定期健診を受けると、虫歯が大きくなる前に発見することが出来ます。定期健診の際には、歯のクリーニングも行いますので、日頃の歯磨きで完全に落としきれなかった歯垢や歯石をきれいに除去することが出来、虫歯や歯周病の予防に効果的です。
2.初期虫歯にはフッ素塗布を行う
フッ素には3つの働きがあり、歯を虫歯から守ってくれます。
- 歯から溶け出したカルシウムやリンを歯に取り込む再石灰化でエナメル質の修復を促進する
- 歯の表面のエナメル質を酸に溶けにくい性質へと強化する
- 虫歯菌の働きを弱めて酸を作られにくくする
3.虫歯になりにくい生活習慣
虫歯にならないために日常生活で気をつけるべきポイントがあります。
- ていねいに歯磨きを行う。歯ブラシ以外にデンタルフロスや歯間ブラシを使うと汚れが落ちやすい
- 間食は時間を決めてとる。糖分を含んだものをだらだら飲食すると虫歯になりやすい
- 歯磨きは一日3回。昼間の歯磨きが難しい場合は夜にしっかり行う
歯を削ると歯の寿命が縮む?
一度虫歯を削って詰める治療をすると、詰め物と歯の間の僅かな隙間から再び虫歯になるということが起こります。これは二次虫歯と呼ばれ、二次虫歯を治療するには、更に歯を削って詰め物をするか、または被せ物をする必要があります。
また、歯を削った時に痛みが出ると、神経を抜かなければならないことがあり、歯の寿命を縮めることに繋がります。虫歯が神経にまで到達した時も、神経を抜く抜髄と呼ばれる治療をする必要があります。
歯の神経を取ってしまうと、歯に血液や栄養がいかなくなるため、将来的に歯の寿命を縮めるリスクが高くなります。
虫歯の治療方法に関するQ&A
再石灰化は唾液中のミネラル(カルシウムやリンなど)が歯の溶けた部分に沈着し、自然に修復する現象を指します。特に初期の虫歯では、この現象を利用して治療することが可能です。
フッ素は歯の再石灰化を促進し、エナメル質を酸に溶けにくい性質へと強化し、さらに虫歯菌の酸作りを弱めるという三つの効果があるため、初期の虫歯治療に有効です。
歯を削ると詰め物と歯の間の微小な隙間から再び虫歯になることがあり、それに対する治療で更に歯が削られます。また、削った時に痛みが出ると、神経を抜かなければならないこともあり、歯の寿命を縮めます。
まとめ
初期のむし歯は削って治療をする必要がなく、歯の再石灰化といって、歯から溶け出したミネラルを歯に取り込んで修復します。
歯の再石灰化を促す為には、甘い飲み物やお菓子はダラダラと飲食し続けないよう、時間を決めて摂取することが大切です。お口の中に糖分が多い状態が続くと細菌は酸を作り続けますので、唾液による再石灰化が追い付かず、虫歯が進行してしまいます。
歯の再石灰化による歯の修復を期待するには、歯のクリーニングで歯から歯垢を除去するプラークコントロールと、食生活の改善が大切です。